5-1 考察
本研究は、おもに外国人留学生の日本認識の変容、日本での差別体験、日本での大学生活という3 つの視点から聞き取り調査を行い、留学生の目に現代日本社会がどう映っているのかを明らかにした。本調査ではインタビュー対象者もいえるが、国費留学生対私費留学生の比率、男女比、出身地域など必ずしも平均的な聞き取り調査ができたとは言えないが、一人一人じっくり話を聞くことで筆者なりの結論を出すにいたった。
彼ら外国人留学生が考える現代日本の特徴は、留学制度の違いや出身地域などにかかわらず一般的に次のようなことが言える。来日前の留学生は、部分的な情報や断片的な知識から日本に対して偏ったイメージしか持っておらず、またそのイメージは来日前に日本に対してどれくらい関心をもっていたか、留学生それぞれによって程度の差はあるが、経済が発展しているという意味での「日本の豊かさ」に集中している。それらの「豊かさ」に対するイメージは、海外に進出する日本企業やそこから生み出され
る日本製品、また日本人などを通じて形成され、その部分的で断片的な知識から得た豊かな国としての日本像は、来日後に持つ彼らの日本認識に大きな影響を与えているようだ。日本が経済的に繁栄し、治安もよいことが世界的にも有名であると考えていた多数の外国人留学生は、来日後の日本社会にはそれとは逆に、日本は今、一種の行き詰まりの時代であること感じ取っていた。日本に多く留学する中国やマレーシアからの留学生は、自国の厳しい社会制度と比べて、日本の自由な雰囲気を楽しみ、うらやんでいる一方で、今の日本に起きている複雑な事件や犯罪は、なんでも許される日本の自由な風潮と経済至上主義のなかで日本人が見落としてきたゆとりのある生活が欠けてしまったために起きている事柄だと考えている。また日本はアジア地域のなかでも先進国であるという思いが強いために、同じアジア地域にもかかわらず、中国やアセアン諸国をはじめとする国々の人に対して、日本人は見下す傾向を持っており、日本で差別を感じている留学生も多い。またこの差別を感じるか感じないかという感情は、どれだけ日本とかかわって生活を送っているかという留学生の関わりの深さによるものであると考えられる。北大の場合、国費留学生の方が私費留学生よりも多いのだが、日本全体をみれば留学生の9 割が私費留学生という現状である。私費留学生は、日本人大学生と同じようにみずからアパートやアルバイトを探す必要があり、日本で生活をしていくなかで、やはりアジア系外国人という理由で差別を受けているという。留学生が日本での生活の中でもっとも大きな位置を占める大学では、彼らと接する日本人は限定されている。留学生は自国でのメディアから「古い日本人」像しかわからないため、実際来日して彼らが接する日本人の多くが大学生という若い世代ということが、日本人像の形成において大きなギャップを生んでいる。北大に多くいる国費留学生は、母国で研究職などについていた人が多く、大学生との関わりを通じて、日本の若者の姿勢や若者が担う今後の日本社会をについての思いを実感している。それは今後の日本に対する展望であり、大学生、若い世代の人々へのメッセージでもあった。本調査でも明らかになったのだか、留学の動機や将来設計など、私費留学生の場合は多岐にわたっている。私費留学生は、将来の選択などがある程度自由に決められるからだ。留学の目的が多様化すればするほど、彼らが日本に何を期待するのか、日本の何に魅力を感じて留学するのか、私たち受入れ国側も知る必要がある。私たち日本人は留学生数の転換期にいる今、日本留学の魅力そのものを問い直す必要がある。調査結果からみても、留学本来の目的である、高い科学技術等を日本で修得し、自国の発展のために生かすという留学生は、全国の留学生の1 割程度しかいない国費留学生に限られていると言っても過言ではない。もちろん、今回聞き取り調査の対象となった国費留学生の多くは、専門分野の習得のほにも、日本に来た意義を探していることがわかった。しかし、研究分野の習得というように留学の目的が明確なために、かえって日本語を学ぶことが重要視されず、「日本語を話せない」という言葉の壁が国費留学生の日本への興味や関心を妨げているのではないだろうか。また、今回の留学生に対する調査を通じて、筆者は留学生を受け入れるということは、日本人同士ではわからない日本の内なる変化を気づかせるきっかけにもなることがわかった。現在起こっている留学生数の低下にはさまざまな要因が挙げられているが、やはり重要なのは留学したいと思えるような日本の魅力が欠けていることだろう。日本経済の衰退や、自国での日系企業の撤退など、かつては留学生を魅了していた日本の経済成長に変わる何かを日本は見つけなければならない。若い世代による「留学」という国際交流は、留学生や留学生を送り出す国だけでなく、日本および日本人にも大きなそして良い影響を与えている。今回の研究で留学生が教えてくれたいくつかの警鐘を胸に刻み、今一度留学生にとっての日本を問い直す必要がある。
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