「書く」、「読む」、「止める」、「待つ」、の過去形はそれぞれ「書いた」、「読んだ」、「止めた」「待った」です。私たちは日常的に意識しないで過去形を作りますが、日本語を学習している人たちにとってはこの過去形はそんなに簡単に作れるわけではありません。たとえば「止める」の過去形は「止めた」と教えると、「書く」の過去形は「書くた」「読む」の過去形は「読むた」と続くのです。でもそうは言いませんよね。どのような規則で私たちは過去形を作っているのでしょうか。日本語話者は動詞をはっきりと2種類に区別しています。「書く」、「読む」、「止める」、「待つ」というように漢字やひらがなのままではなかなか識別できないのですが、これらをローマ字で書いてみるとそれぞれの違いが浮き出てきます。
(1)
kaku
yomu
yameru
matu
(1) は「書く」、「読む」、「止める」、「待つ」をローマ字で書いたものです。すべての動詞のあとに-uがついています。この-uを取ると次のようになります。
(2)
kak
yom
yamer
mat
(2c) だけ形がへんであるのに気がつくでしょう。実は-ru は-u の異形態で実際は yameというのが元の形だったのです。つまり「止める」yame-ru 以外はすべて子音字で終わる語なのです。「止める」のみが母音字で終わる語なので、終止形は-uではなく-ruをつけるという規則があるのです。「止める」のような母音で終わる動詞を過去形にする場合は終止形の-ruを取って「た」をつけます。「止める」yame-ruの場合は-ruを取り「止めた」yame-taとなります。一方、「書く」、「読む」、「待つ」は終止形の-uを取るとすべて子音で終わる動詞です。子音で終わる動詞を過去形にするには-itaをつけます。そのまま-itaをつけると次のようになります。
(3)
kakita
yomita
yameta
matita
しかし現代語では上のように使いません。kやgなどの軟口蓋音の場合はその子音を脱落させてkaita となります。一方、mやnなどの鼻音の場合は-ita の-iを脱落させてmをすべてnに変えてさらに-itaのtを有声化します。「読みた」yomita は「読んだ」yondaとなります。さらに-t や-rや-hで終わる開放音の場合は過去辞の-itaの-iを脱落させてさらに子音字を重ねて「待った」mattaとなります。これらの規則が働いたものが次の過去形です。
(4)
kaita
yonda
yameta
matta
(4a)を「イ音便」(4b) を「撥音便」(4d)を「促音便」とそれぞれ呼びます。これらの規則を私たちは即座に頭の中で計算をして実行しているのです。ちょいとそこいらの高性能のコンピュータなどよりははるかに精密な頭脳を持っていることがお分かりでしょう。
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