日本語の動詞には「授受関係」を表わす動詞があります。これらを一般に「やりもらい」の動詞といっています。やりもらいの動詞は単独で授受関係を表わす場合と、他の動詞と複合してより複雑な表現をするのにも使われます。まずは「やる」の動詞を例文でみてみましょう。
(1)
a. わたしがあなたに本をやった。
b. わたしが彼に本をやった。
c. わたしが弟に本をやった。
「やる」とう動詞は主語が一人称の場合は間接目的語にどのような人称の代名詞がきても文法的です。しかし「やる」という動詞は主語に二人称の代名詞がくると非文になる場合があります。
(2)
a. あなたがわたしに本をやった。
b. あなたが彼に本をやった。
c. あなたがわたしの弟に本をやった。
d. あなたがあなたの弟に本をやった。
(2a) は間接目的語に一人称の代名詞の「わたし」があるから非文になっています。一方、(2b)は主語が「あなた」と二人称ですが、間接目的語が「彼」と三人称なので文法的です。(2d)の「やった」も主語が二人称の「あなた」間接目的語が三人称の「あなたの弟」なので文法的です。しかし間接目的語が同じ三人称でも「わたしの弟」となんらか一人称の「わたし」が関係してくると(2c)のように非文になってきます。(2c)のような「わたしの弟」の場合は日本語の場合は次のように「くれる」という動詞をつかいます。
(3)
a. あなたがわたしの弟に本をくれた。
b. あなたがあなたの弟に本をくれた。
c. あなたが彼に本をくれた。
d. あなたがわたしに本をくれた。
(3b)の間接目的語になんらか一人称の「わたし」と関係のない代名詞がはいってくると「くれる」の場合は非文になります。(3c)がになっているのは間接目的語の「彼」の前に「わたしの」という一人称の所有格形が省略されていると考えるかどうかによって文法性がきまってきます。にしたのは「わたしの彼に」と呼んだ場合には文法的で「あなたの彼に」と呼んだ場合や「彼女の彼に」と呼んだ場合には非文になるということを意味します。
(4)
a. あなたがわたしの彼に本をくれた。
b. あなたがあなたの彼に本をくれた。
c. あなたが彼女の彼に本をくれた。
d. あなたがわたしの妹の彼に本をくれた。
e. あなたがあなたの妹の彼に本をくれた。
一方、三人称の主語の場合も間接目的語に「わたし」がなんならかの形で入っていなければ「くれる」は非文になります。次の例文を比べてみてください。
(5)
a. 彼がわたしに本をくれた。
b. 彼があなたに本をくれた。
c. 彼が彼女に本をくれた。
d. 彼が弟に本をくれた。
(5b)が非文なのは「くれる」の間接目的語に一人称の「わたし」が何らかの形で入っていないからです。一方、(5c)や(5d)がなのは間接目的語の前になにが省略されているかによって判断がことなるからです。例えば「わたしの彼女」の「わたしの」が省略されている場合には(5c)は文法的となり、「彼の彼女」の「彼の」が省略されていると解釈されると非文となります。(5d)も同じです。次の例文を見てください。
(6)
a. 彼がわたしの弟に本をくれた。
b. 彼が彼の弟に本をくれた。
(6b)が非文なのは間接目的語に一人称の「わたし」というのがなんらかの形で入っていないからです。最後に「もらう」とう動詞がどのように振る舞うかをみてみましょう。例文からです。
(7)
a. わたしは彼から本をもらった。
b. わたしはあなたから本をもらった。
c. わたしは弟から本をもらった。
「もらう」は主語が一人称であるならばすべて文法的です。次に主語が二人称の場合を考えてみましょう。
(8)
a. あなたはわたしから本をもらった。
b. あなたは彼から本をもらった。
c. あなたは弟から本をもらった。
(8)で表わされているように「もらう」は主語が二人称の「あなた」の場合でもどれでも文法的です。次に主語が三人称の場合を考えてみましょう。
(9)
a. 彼はわたしから本をもらった。
b. 彼はあなたから本をもらった。
c. 彼は彼女から本をもらった。
d. 彼は弟から本をもらった。
主語が三人称の場合でも「もらう」とう動詞は問題がありません。「やりもらい」動詞が人称によって文法性に影響がでてくるのは日本語の人称代名詞の問題、ゆくゆくは日本語の「代名詞」の問題と深く関わってきているように思われます。
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